捨てる書類

 確定申告が終わり、そろそろほっとされている頃だと思います。所得税や相続税の申告が終わると必ずといって、「先生、書類の保存は何年間ですか?」とのご質問を頂戴します。辻・本郷税理士法人編著の税務・法務必携データポケットBOOK(清文社発行)を見ると、青色申告者の場合その備えるべき帳簿等の法定保存期間は7年と書かれています。
  この同じ質問を私の上司がお客様より受けたことがあり、次のようにお答えしていました。

  「この世に捨てる書類はありません。ただ、保管するためのコスト等が大変であれば処分してください。原則は永久に保存するものです。」

  相続税の調査で調査官が問う事項に、妻名義の預金があります。調査官は、結婚して以来働いたことのない妻名義の預金は、夫の収入の一部を積み立てていた預金として、厳しく追求します。たとえ、名義は妻であっても、この預金の原資は、夫の収入であり、夫の財産であるという考えです。
  多くの奥様は、虎の子である御自分名義の預金を、税務署のこの指摘に無抵抗のまま、泣く泣く相続財産に加算され、追加の相続税と罰金をしぶしぶお支払いになっていただくことになります。
職業柄、私達税理士も、どうしても、税務署の同じ観点から疑って見てしまう場合が多く、税務署の言うとおり、相続財産に計上しなければならないかしらと半ばあきらめた頃

  「先生 この書類見てください!結婚する際に私が持参した当時の預金通帳です!
私が結婚前にOLで働いていた当時の給料が記載されています!」

  「ありました!源泉徴収票が!子供ができるまでの間しばらく働いていました!思い出しました!」」

  「そういえば、実家の父が亡くなった際、兄から相続財産として、現金をもらっていました。分割協議書のコピーもありました。」

  「父が贈与してくれた際の贈与税の申告書が出てきました!」

 と何人かの奥様は、保管されていた書類を見つけ出してくださり、相続財産に計上することをまぬがれることができたケースがあります。
 このように、捨てなかった書類が、将来御自分を助けてくれることがあります。特に相続税の世界では、法律の世界と異なり、名義の如何にかかわらず、実質の所有者に課税するという考え方です。
  相続税の申告書や、確定申告書はもちろんのこと、御自分の収入や財産に関する書類は、御自分を守る武器として、まさに、御自分が亡くなるその日まで、保管されることをお勧めします。

相続登記をお忘れなく

 相続税の申告や納付は、相続発生から10ヶ月以内という期限があります。ただ、相続登記をこの期限内に完了させなければならないという規定はなく、また、登記しないことによる罰則もありません。売買の場合は、他人との取引ということもあり、所有権移転登記が代金の授受と同時に必ず行われますが、相続登記は、身内との取引ということもあり、中には、そのうち、ゆっくりやればいいとお考えの方がいらっしゃるようです。
 先日、お目にかかったお客様は、ご所有の?土地について、お爺様のご相続、曾お爺様のご相続と2代にわたって登記をされていらっしゃりませんでした。お客様がおっしゃるには、曾お爺様のご相続の際は、家督相続が当時の法律で決められていたので、曾お爺様からお爺様への相続は、他の相続人の承諾を得なくてもそのままお爺様が相続されるのではとおっしゃられていました。
 司法書士の先生によると、曾お爺様の時代は法律で家督相続が決められていたとしても、現在に登記する際は、現在の民法にて、曾お爺様の現在の相続人で分割を協議しなければならないとの答えでした。しかも曾お爺様の相続登記をし、その後、お爺様の相続登記と2回登記しなければならないようでした。曾お爺様の相続人は、現在、どなたになるのでしょうか?まず、相続人を確定する作業に入ることになりましたが、かなりの時間がかかることが予想されます。
 またこの状態で、また、ご相続が発生した場合は、相続の申告期限までに、2代の相続登記が完了していないと、この土地については分割できないことになり、「配偶者に対する税額軽減」や、「小規模宅地の特例」は適用できないことになります。
 時が過ぎれば過ぎるほど、相続人が鼠算式に増えていき、やっかいになっていくのが、相続登記です。相続登記をされていない方、是非、お早めに登記をされることをお勧めします。

株式と税務調査

 最近の相続調査の多くは被相続人と相続人間をめぐる生前の財産移動についてその真否を問うということに主眼がおかれています。
特に会社経営されていた方の御相続の調査は、その会社の株式の移動をめぐっての調査にポイントが置かれます。何故でしょうか?
 未上場の会社の多くは、① 株券が未発行 ② 株主台帳が未作成  ③ 株主名簿も未作成というように、株式の移動については、きちんとした記録をとっていません。
会社に保存してある株主関係の資料といえば、法人税の申告書の別表二に記載された株主欄の氏名と株式数、配当の支払調書等法人税関係があるだけというところが多く、それも設立からお亡くなりになった事業年度まで全部保存してあるという会社もあまりありません。
 反対に移転を受けた株主側に、贈与税の申告書、贈与契約書、譲渡所得税の申告書、売買契約書等、移転を立証する資料も全部そろっているケースもまたなかなかありません。
創業数十年という長い歴史の中を経ての相続発生なのでしかたがないことかもしれませんが、証拠書類の添付がない申告書を収受した税務署も、真の株主は誰か確かめなければならず、調査にやってくるわけです。それでは上記に掲げた資料さえもみつからなかった場合、税務署はどうやって、真の株主を見つけることになるのでしょうか?
 この場合には、生前、被相続人からの贈与や売買で株主となった相続人本人に株式について事情聴取をして確かめることになります。
・株券はもらっていたか?
・どうやって株式を取得した
・配当はもらっていたか?
・配当はどのような方法でもらっていたか?
・株主総会は開催されていたか?
・株主総会の招集通知はもらっていたか?
・増資について記憶があるか?
・増資の引き受けをしたことがあるか?
 贈与や売買の手続は一切被相続人が行っていて、移転を受けた相続人は詳細を何もしらないままでいるケースがよくあります。このようなケースで上記のような質問を受けた相続人は果たして答えられるでしょうか? 株式移転をする際は、必ず、移転を受ける本人への説明、配当を支払った際には必ず本人に配当金を手渡す、株主総会にもきちんと出席させるといったように、常日頃、株主としての自覚をもってもらうことが重要です。

公正証書遺言をかかれるときにはご注意を!

遺言書には、大きくわけてご自分で書きご自分の責任で保管しておく、「自筆証書遺言」と公証人役場で作成する「公正証書遺言」の2種類があります。当たり前のことですが、「自筆証書遺言」は変更があれば簡単にいつでもすぐ書き直せます。そのかわり、相続が発生した後、家庭裁判所に第三者立会いのもと、相続人全員が集まり遺言であることをお互いに確認する手続き、「家庭裁判所での検認」を受けなければ正式な遺言書としては認められないことになっています。その点「公正証書遺言」は、公証人の立会いのもと、正式な遺言書として確定されていますので、実際に相続が発生したときは、検認という面倒な手続はいりません。但し、変更するときは再度、公証人役場に出向かなければならないという点では、「自筆証書遺言」よりも面倒ともいえます。そこで、「公正証書遺言」で遺言を作成する場合、次のような点をご注意ください。

1 変化しそうな資産は詳細に記載しないこと

  遺言書を作成してから実際の相続の発生までの期間に遺言書作成時のお手持ちの金融資産をそのままにしておくことは現在のご時世ではまずないと思われます。遺言に孫○子は○○銀行の定期預金 ○○円のみと書かれたとします。この遺言のことを忘れて、その定期預金を證券投資信託に変えたとたん、相続が発生してしまったらどうなるでしょうか? 孫 ○子は何ももらえないことになります。孫 ○子に金融資産をあげたいのなら、預貯金のうち○分の1、上場株式のうち○分の1等と大きな分類で記載されると、多少、金融資産の内容を変更してもすぐに遺言書を変更する必要がありません。

2 まずは絶対にあげたい資産のみだけを書いておく

  今現在、これだけは○○にあげたいという資産のみ決まっていらっしゃる場合、たとえば、ご自分で経営されている会社の株式や、会社で使用している資産、ご自宅など、その資産だけを記載した遺言書をまずは作成しておかれたはいかがでしょうか。何が何でも全財産くまなく分配する遺言書を書かなければならないということはありません。但し、この場合は、資産だけでなく、その資産を相続する際にかかる相続税の資金について、遺言書に記載するかどうか検討されてください。

 財産をあげる人、財産をもらう人の心がいつまでも変わらないという確証はありません。
そういう意味では1度遺言書を書いたら終わりということはありません。毎年、除夜の鐘を聞くときにでも、来年も書いた遺言書の内容でいいかどうか、チェックされることをお勧めします。

相続税対策は先ずは森を見て

相続について数多く税務相談を受けてまいりました。
「どのようなことでお悩みでしょうか?」 私の問いかけに、

 「アパートを建てると相続税って下がると聞いたのですが?」
「相続税対策で、銀行から借り入れしてアパートを建築したのですが、借入金が少なくなってしまったので再度借り入れを起こしたほうがいいでしょうか?」
「アパート収入が増えると私の相続の際、相続税が大変になって息子が苦労すると思うので、息子名義でアパートを建築しようと思うのですが?」

といろいろなご相談が投げかけられます。必ず、私は次の一言から始めます。
「相続税が今いくらかかるかご存知ですか?」
「そうじゃなくて、私が聞きたいのは相続税が下がるかどうかなのに、もうこの人ったら何いっているのかしら」と思っていらっしゃられるのでしょうか、やや、ご不満そうに「ありませんよ!」とおっしゃられます。
 「それでは今簡単に税額を算出してみましょう。お持ちの資産はおいくらぐらいですか?
ご相続人になられる方は何名ですか? ・・・・」とお聞きし、やおら、相続税算出のための早見表を持ち出し、おおまかな相続税を算出し、お客様にお見せすると
 「はあ、この金額ですか?・・・心配することなかったですね。」
 「え! 相続税かからないの! よかった。」
と多くのお客様が安心されます。
ご自分の相続が心配になったときは、まずは、相続税の試算です。
相続税対策を依頼されたお客様に、相続税の金額の報告をさせていただいた瞬間に、お顔に安堵感が現れるのを何度か拝見させていただいております。
相続税の金額を明確にしてから、納税資金は大丈夫か? 遺産分割はどうする? と対策を進め、最後に、相続税のそのものに入るのが相続税対策の王道です。
よく、木を見て、森を見ていないということが格言でいわれますが、相続税対策も、相続税がいくらかかるのか、相続税の対象になる資産は何があるのか、相続税の計算において資産の評価はいくらになるのか、と相続税という森を見ないで、相続税の引下げという木だけに主眼を置くと、間違った対策になる恐れがあります。
「うちは相続税なんて心配ないよ。そんなに財産はないし・・・」とおっしゃるお客様の算出した相続税は思いかけず多額であったり、「相続税が心配で、心配で・・・」とおっしゃるお客様は、相続税がかからなかったりということがよくあります。
病気にならないように、医師に人間ドックを受けるように、相続でご家族が悲しまれないように、税理士に財産ドックを受け、相続税の算出をまず実施されることをお勧めします。