日本の世田谷区等々力に住所を構えるAさん(55歳)は、米国カリフォルニア州に所有していた不動産を、将来アメリカに住むことを願っている長男のBさん(22歳)に贈与しました。このとき、Bさんは日本に住んでいるため日本の相続税では、無制限に全世界の財産に対して課されます。したがいまして、日本では通常通り贈与税の申告が必要です。また、米国においてもアメリカにある財産に対してアメリカの贈与税が課されます。つまり、日米双方で課税がされるので、どちらか一方で控除されなくてはなりません。
日米相続税条約では、他方の国内にある財産について課された租税については、自国の租税から控除するものとしています。そのため、今回のケースでは、アメリカの贈与税を日本の贈与税から控除します。これを外国税額控除といいます。法人の分野ではよく知られていますが、個人の分野では、それほどは知られていません。
具体的には、日本の贈与税を先に申告をします。日本の贈与税の申告期限は贈与年の翌年3月15日までです。その後、アメリカにおいて申告をします。アメリカの贈与税の申告期限は贈与年の翌年4月15日までです。さらに再度日本に戻りまして、アメリカで贈与税が課せられたことを証する書類等を添付して更正の請求という税金を返してもらう手続きをします。
ところで、アメリカでは財産をあげた人(贈与者、父Aさん)に贈与税が課せられます。一方、日本では財産をもらった人(受贈者、長男Bさん)に贈与税が課せられます。そのため、Aさんがアメリカで納めた贈与税が日本においてBさんに還付される図式になります。この還付される税額相当分の移転を考慮すれば、国内にある財産の単純な贈与よりも有利となる可能性もあります。
ただし、納税義務者の判定(住所が日本なのかアメリカなのか)、米国での申告手続(英文での申告が必要です)、財産評価(不動産の鑑定も必要です)など難しい部分も多いですので、十分な比較検討が必要となります。
アメリカでは、大統領選挙が終盤を迎えています。共和党のマケイン候補と民主党のオバマ候補との最終決着を11月に控えているところですが、現ブッシュ大統領の減税によって大きな変化を迎えようとしているアメリカの相続税の行方を簡単に触れておこうと思います。
まず、2010年にアメリカの相続税は廃止されます。これは、2001年から始まったサンセット法(日本の租税特別措置法のような一定期間の暫定的な法律です。)に基づき、相続税の税率が段階的に下げられ、2010年の1年間だけ、相続税が廃止されるということになります。また、2009年までの制度では、相続時の時価を譲渡所得の計算に用いる取得価額に置き換えます。しかし、相続税が廃止される2010年の相続については、譲渡所得の計算に用いられる取得価額が日本の制度と同じように引き継がれることになり、相続時の時価で置き換えられるということにはなりません。しかし、何の手当てもなされないと、2011年においては、また相続税が再び復活し、2001年当時の税制に急変するというシナリオになります。
そもそもアメリカの相続税では、遺産を取得した人に課税がされるのではなく、遺産を残す被相続人に課税がされる遺産課税方式となっております。そのため、以前は、被相続人が日本に居住し、相続人がアメリカに居住していた場合には、日本とアメリカの両方において納税義務者とならないという事態がありました。しかし、日本の相続税では、平成12年に国籍基準が導入されております。具体的には非居住無制限納税義務者と言われ、相続又は遺贈により財産を取得した者が日本国籍を有する場合には、日本に居住していなくとも、被相続人と相続人のいずれもが5年超の期間日本から離れていない限り、全世界財産が課税の対象とされます。
ところで、制限納税義務者の場合に課税の対象が国内に限られるので、有利と思うかもしれませんが、常にそうとも限りません。仮に日本に財産が100、その財産に係る負債が20あり、アメリカに財産が40、その財産に係る負債が60あったとします。その場合、
1.無制限納税義務者の課税財産の合計は100+40-(20+60)=60
2.制限納税義務者の課税財産の合計は100-20=80
となり、逆に制限納税義務者のほうが不利になることもあります。多国籍間の財産の所在についてバランスをとることが必要かと思われます。
平成12年以前の事件ですが、海外に住居を移した長男への株の贈与の無申告について争いがある「武富士事件」については、1審で納税者勝訴、2審では国側勝訴となっていて上告審に注目が集まっております。アメリカ相続税の行方もそうですが、国際相続について様々な事案が増えていきそうです。
参考文献
・税研 139号 矢内一好「国際相続の税務」
・三木義一 前田謙二『よくわかる国際税務入門』(有斐閣)
取引相場のない株式に係る納税猶予制度の創設が平成21年税制改正において予定されています。この納税猶予制度の適用開始は中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の施行日に遡って適用することとされています。そして、この経営の承継の円滑化に関する法律の施行は平成20年10月が予定されていますので、納税猶予制度も改正が行われると想定される平成21年3月から約6ヶ月も遡ってしまう計算になります。
租税法規の遡及適用については、法的安定性、予測可能性の観点から問題が生じますが、納税者へ著しい不利益を与えるものでなければ許されるものとされています。昭和51年3月31日の地方税法改正法の成立に伴って改正条例によりM県及びT市により賦課された昭和51年度分の個人住民税均等割については、賦課期日はその年度の1月1日ということで、租税法規を遡って適用しています。しかし、昭和55年9月16日の名古屋高裁の判決においては、「軽微な変更に止まり納税義務者に著しい不利益を与えないものと認められる」として許容しています。
また、記憶に新しいところですと、平成16年3月26日の租税特別措置法改正法の成立により、平成16年1月1日以後の土地建物の譲渡損失の損益通算が認められないことになりました。これについて平成20年1月の福岡地裁では、租税法規不遡及の原則に反しており、違憲であり、損益通算を認めるべきという判断を示しています。逆に、平成20年2月の東京地裁では、前年の税制大綱においても示されており納税者に周知徹底が図られており遡及適用に合理的な必要性があったとして損益通算を認めないという判断を示しています。このように判決は分かれており、それぞれ控訴審において係属されていますが、そもそも、「納税者の利益に変更する遡及立法は許される(金子宏『租税法〔第11版〕』弘文堂、2006年、118頁)」と考えられます。
自社株の納税猶予制度については、納税者の利益に変更するものであるため、許容されるものと考えられます。しかし、これと同時に遺産取得課税方式の導入などの相続税の抜本的見直しがされた場合には必ずしも納税者の利益にはならないのではないかとも考えられます。納税猶予制度を採用した場合にのみ遺産取得課税方式で計算をするなどの経過措置が設けられるのでしょうか、また、早い段階でさらなる制度の周知徹底がなされて納税者の不利益を事前に消滅させていくのでしょうか。租税法規の遡及適用について、控訴審の行方も含めて注目していきたいところです。
参考文献
・宮崎良夫「遡及立法」水野忠恒ほか『租税判例百選〔第4版〕』有斐閣、2005年、8頁
・金子宏『租税法〔第11版〕』弘文堂、2006年、118頁
年金受給権と同権利に基づく年金に対する所得税の課税が二重課税かどうかについて、福岡高裁は平成19年10月25日、二重課税には該当しないとの国側勝訴の逆転判決を下した。
原審では、相続税法における年金受給権は、各年金の現在価値に引き直したものにすぎず、実質的・経済的には同一の資産に対して課税するものであり、所得税法9条1項15号の非課税の趣旨により許されないとされていた。
しかし、福岡高裁では、年金受給権と各年金については民法上、別個のものであり、相続によって取得した年金受給権については非課税とされるものの、現実に支給される各年金は、支分権に基づいて発生するものであり、所得税法35条に規定する雑所得として課税されるとしている。
年金総額を一括して一時金として受けた場合には、所得税が課税されないのに、死亡後に支払われる年金について課税がされるのは理解し難い部分もあるかもしれない。しかし、相続により取得した土地についてまず、相続税が課税され、さらに、その土地を毎年処分したならば、その譲渡益に対しても年々所得税が課税されることを年金に置換してイメージするとぼんやりと理解できそうである。所得税法施行令183条では、その年に支払われる年金のうち、年金総額に対して掛金の占める割合部分を控除することを規定している。これは、譲渡所得の計算における取得費に近い概念であろう。
ところで、相続により取得した財産について相続税の納税資金を捻出するために売却したときに譲渡所得という所得税が課せられるという実務をやっていれば当然と思われていたことについて最近ふと考えさせられた。米国資産税では、STEP-UP IN BASISという制度により、相続により取得した財産については、相続時の価額に取得費が置き換わる。つまり、相続後に取得した財産を直ちに売却した場合には、ほとんど所得税が課税されないことになる。ちなみに、生前贈与で後世に移転する場合には、取得費は引き継がれる。日本の譲渡所得の計算においても、租税特別措置法39条により、相続開始後3年10ヶ月以内に譲渡した場合には、相続税額の一部分を取得費に加算して譲渡所得の負担を緩和する制度が設けられている。それでも、主に譲渡対価の5%とされてしまう取得費を相続により移転しても引き継ぐこととされているため、譲渡所得は大きい。
所得税法9条1項15号の立法の経緯をたどると、一時所得とされるもののうち相続により取得したものについて非課税とされていたという。年金二重課税訴訟は納税者が上告をしたため、最高裁で争われることになるが、どのような判断となるか非常に気になるところである。
参考文献
・「関連者間における所得移転と所得税の課税対象」酒井克彦『税務事例』39巻7・8号
・税務通信11/5号
被相続人のAさんは所得税の更正処分に対して不服申し立てを行い、さらにはその取り消しを求める訴訟をしていました。しかし、その訴訟が係属している最中、Aさんは死亡しました。Aさんの一人息子で唯一の相続人であるBさんは親の訴訟を承継し、Aさんの所得税の更正処分を取り消す判決が言い渡されました。この判決の確定に伴い、還付金及び還付加算金が相続人のBさんに支払われました。
まず、このAさんが争っていた所得税の還付請求権が相続財産に含まれるかどうかが問題となります。相続税の課税時期においては所得税の課税処分の取り消しを求めていた段階であり、相続財産を構成しないと考えることもできます。しかし、相続税の課税対象は、動産や不動産に限らず、経済的価値に対する支配権まで広く及びます。相続税法基本通達11の2-1においても金銭に見積ることができる経済的価値のあるすべてのものを財産としており、具体的には、信託受益権や電話加入権等が含まれます。また、法律上の根拠を有しないものであっても経済的価値が認められているもの、例えば、営業権のようなものが含まれます。たしかに、過納金が発生したのは取り消しが確定したときですが、被相続人のAさんが過納金の存在とその還付を求めて争っていたため、相続人のBさんに還付金という利益が生じたと考えられます。つまり、相続人固有の財産というものではなく、相続開始時においては還付金請求権という相続財産を構成すると言え、裁決においてもこのように判断されています。
次に、上記還付金請求権が相続財産に該当するとして、相続税の更正処分があった場合に、原則として国税通則法65条1項に規定する過少申告加算税が課されます。しかし、国税通則法65条4項では「第一項又は第二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する。」として、『正当な理由』がある場合には、過少申告加算税を課さないこととしています。
本件の場合、原処分庁が相続財産として申告することを予定していない、として『正当な理由』があると裁決で認められています。仮に、BさんがAさんの名誉のために所得税の更正処分の取り消しを強く求めるあまり、還付金請求権を相続税の当初申告において相続財産として申告した場合との対比を考えれば、この理由には疑問が生じます。それでも、還付金の相続財産性について、参照すべき判例等がなく評価ができなかったことが問題であり、申告秩序の維持という過少申告加算税の要請から考えて、秩序が害されない限りにおいて、『正当な理由』はもう少し認められてもよい気がします。
参考文献
・『裁決事例集69』大蔵財務協会217頁~
・「相続後に確定した被相続人に対する還付金の相続財産該当性」高野幸大『税務事例研究95』49頁~
Aさんは、晩年において、痴呆状態にあり、誰かの介護がなくては生活できない状況にありました。Aさんの配偶者であるBさんは自宅にバリアフリーのための改修(平成19年度改正において一定の住宅バリアフリー改修については、所得税、固定資産税の一定の減額措置が設けられています)をした上で、熱心に介護を続けました。Aさんには二人の子供がいました。おにいちゃんのCさんは、ニートとして部屋にひきこもり、株の投資による収入でまったりと暮らしていました。いもうとのDさんは、対照的に家でも外でも活動的で、昼はオフィスで汗を流し、夜はBさんが行うAさんに対する介護を手伝っていました。CさんとDさんは仲がよくありませんでした。
その後、Aさんはなくなり、後を追うようにしてBさんも亡くなりました。
Bさんは自己を保険金契約者及び被保険者とし、死亡保険受取人をDさんとする養老保険を契約していました。保険金は1,000万円です。
Bさんの死亡に伴う遺産分割において、この保険金について、民法903条に規定する特別受益に該当するかどうか問題となります。特別受益とは、被相続人から生前に贈与を受けていた場合のその贈与の価額です。被相続人が相続開始時点において有していた財産の価額にこれらの贈与の価額を加えたものを相続財産とみなして、持ち戻しをして、本来の相続分から、その贈与の価額部分を控除して、特別受益者の実際の相続分とします。
おにいちゃんのCさんは、死亡保険金はDに対する特別受益であるとして主張します。しかし、平成16年10月29日最高裁判決(判時1884号、P40)では、保険金受取人が自らの固有の権利として保険金を受け取るものであり、保険契約者又は被保険者から承継するものではなく、相続財産に属するものではないものとしています。そして、著しい不公平が生じる場合を除き、原則として保険金は特別受益には該当しないと判示しております。なお、平成14年11月5日最高裁判決(判時1804号、P17)では、遺留分減殺の対象にならないことも明らかにしています。
相続税でも相続や遺贈の概念は民法からの借用概念ではありますが、相続税法3条では、被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約の保険金を取得した場合においては、その保険金受取人について、その保険金のうち被相続人が負担した保険料の金額のその契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分を相続又は遺贈により取得したものとみなすと規定しています。つまり、民法上は相続財産ではありませんが、相続税法上では相続財産に含まれて課税されるのです。ただし、その保険金については、長期貯蓄の奨励と遺族の生活保障を目的とした非課税金額が相続税法15条2項に規定する法定相続人の数に500万円を乗じた部分まで認められています。すべての相続人が取得した保険金の合計額がこの非課税限度額以下である場合には、全額が非課税とされます。上手に活用したいものです。
<参考文献>
渋谷雅弘「みなし相続財産―保険金」(金子宏ほか『ケースブック租税法(第二版)』P608~)
中西正明「生命保険金請求権の相続性」(久倉忠彦ほか『家族法判例百選(第6版)』P130)


