平成21年中に住宅資金の贈与をされる場合

 「09年度中の税制改正を視野に、住宅や自動車の購入分は贈与税を数年間に限定して課税免除をする案が有力。贈与税軽減で高齢者から若い世代に資産が移り、それが消費刺激につながることを期待している。」(日本経済新聞平成21年4月1日記事より)
 麻生首相が経済対策の一環として贈与税の軽減に言及しています。

 贈与税の課税制度には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。

 「暦年課税」の場合は基礎控除が年間110万円です。これを超えた分の贈与金額に対し10%~50%の税率がかかります。
例えば、住宅資金を贈与する場合、贈与金額3500万円に対し1470万円の贈与税がかかることになり、せっかく住宅資金として贈与しても実際使える資金は2030万円となってしまいます。

 このような場合、一定の要件に該当すれば、「相続時精算課税」制度を選択することができます。贈与時に基礎控除が3500万円で、これを超えた分の贈与金額に対し一律20%の税率がかかります。
 贈与税を納め、その贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めたその贈与税相当額を控除することにより贈与税・相続税を通じた納税を行うものです。
 なお、受贈者である子は贈与者である父、母ごとに選択できますが、いったん選択すると選択した年以後贈与者が亡くなった時まで継続して適用され、暦年課税に変更することはできません。
 先程の3500万円を贈与した場合、贈与時には基礎控除の枠内なので税金は発生しません。ただし、相続時に相続税の計算をするときは、贈与財産が上乗せされて計算されます。

 そこで今回の贈与税の軽減ですが、「平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間に20才以上の者がその直系尊属である者から受ける自らの居住用家屋の取得に充てるための金銭の贈与については、当該期間を通じて500万円まで贈与税を課さない。この特例は、暦年課税又は相続時精算課税の従来の非課税枠にあわせて適用可能とする。」という案が与党から出されています。
 相続時精算課税を選択すると相続時に相続財産に上乗せされて計算されることになりますので、相続時精算課税制度の適用を検討される方、この贈与税の軽減案がどうなるか見極めてから制度の選択を判断して下さい。

保険金の受取人が「相続人」の場合の取扱い

 死亡保険金は、民法上、受取人固有の財産であって、被相続人の遺産にはあたらない(相続税法上は、相続財産とみなして相続税の対象となります。)ことから、遺産分割協議の必要がないということは、すでに多くの方がご存じのことと思います。
 例えば、相続人が、配偶者と子供2人のケースで、死亡保険金3,000万円の受取人が「配偶者」と決められている場合、この死亡保険金3,000万円は、配偶者の固有財産であり、配偶者が保険金請求権を有することとなり、子供2人と遺産分割協議を行う必要はありません。

 では、上記のケースで、保険金の受取人が、「配偶者」ではなく、保険契約上、「相続人」となっている場合はどうでしょうか?
 以前、お客様より、相続人が複数いるケースで、受取人が「相続人」となっているので、これは行き先が決まっていないのだから、話し合い(遺産分割協議)で割合を決めることはできないのかというご質問を受けたことがあります。
 この回答ですが、ここはやはり原則に戻って、生命保険金は被相続人の遺産にはあたらず、受取人固有の財産であることから、遺産分割協議の対象とはなりませんので、割合についても分割協議で決めることはできないということになります。したがって、複数の相続人がそれぞれ固有の財産を所有するということになりますので、上記のケース(相続人が配偶者と子供2人)の場合、配偶者と子供2人の各々が固有の財産としての保険金請求権を有するということになります。そうすると問題は、配偶者と子供2人の受取割合ということになります。
この受取割合については様々な意見があるのですが、結論から申し上げると、保険金受取人たる相続人が複数いるときの受取割合は、法定相続分の割合となります。(ただし、保険会社の約款等で別段の契約がある場合や実質的受取人がいる場合には、まずこれに従います。)つまり、配偶者は、2分の1の1,500万円、子供2人が各々4分の1の750万円の保険金請求権を有することになります。
 従来は、民法427条により均等額とされていましたが、H6.7.18付最高裁の判決により、同条の「別段の意思表示」として「法定相続分相当額」になりました。
では、必ず法定相続分の割合で受け取らなければならないのかどうかですが、実質的には割合を変えて受け取ることは可能となります。しかし、その場合には、指定受取人以外の人が取得することになりますので、以下の留意点が必要となります。

(1) 贈与となるケース
 上記のケースで、仮に配偶者と子供2人が均等額である1,000万円ずつを取得した場合、本来であれば、配偶者は1,500万円を固有の財産として取得する権利があるので、法定相続分と実際受取額の差額(子供1人につき250万円)について通常(相当の理由がない場合)は、相続人間(配偶者と子供間)の贈与とされてしまいます。

(2) 代償分割のケース
 遺産分割で、当該差額(子供1人につき250万円)について代償分割とすることも可能です。この場合、贈与税は課されず、相続税となります。
  しかし、代償金の取得は本来の相続によって取得したものであるため、生命保険金を取得したものとみなされず、生命保険金の非課税の適用はありませんので注意が必要です。
注)取得した相続財産を超える代償金を支払うと、それは遺産の分割手続きに該当せず、贈与税が課されますので注意を要します。

 つまり、法定相続分と異なる割合で取得すると通常余計な税金がかかってきてしまうことになりますので、分割協議の調整上、どうしても異なる割合で分ける必要がある場合を除き、法定相続分どおりに分けることをおすすめいたします。

捨てる書類

 確定申告が終わり、そろそろほっとされている頃だと思います。所得税や相続税の申告が終わると必ずといって、「先生、書類の保存は何年間ですか?」とのご質問を頂戴します。辻・本郷税理士法人編著の税務・法務必携データポケットBOOK(清文社発行)を見ると、青色申告者の場合その備えるべき帳簿等の法定保存期間は7年と書かれています。
  この同じ質問を私の上司がお客様より受けたことがあり、次のようにお答えしていました。

  「この世に捨てる書類はありません。ただ、保管するためのコスト等が大変であれば処分してください。原則は永久に保存するものです。」

  相続税の調査で調査官が問う事項に、妻名義の預金があります。調査官は、結婚して以来働いたことのない妻名義の預金は、夫の収入の一部を積み立てていた預金として、厳しく追求します。たとえ、名義は妻であっても、この預金の原資は、夫の収入であり、夫の財産であるという考えです。
  多くの奥様は、虎の子である御自分名義の預金を、税務署のこの指摘に無抵抗のまま、泣く泣く相続財産に加算され、追加の相続税と罰金をしぶしぶお支払いになっていただくことになります。
職業柄、私達税理士も、どうしても、税務署の同じ観点から疑って見てしまう場合が多く、税務署の言うとおり、相続財産に計上しなければならないかしらと半ばあきらめた頃

  「先生 この書類見てください!結婚する際に私が持参した当時の預金通帳です!
私が結婚前にOLで働いていた当時の給料が記載されています!」

  「ありました!源泉徴収票が!子供ができるまでの間しばらく働いていました!思い出しました!」」

  「そういえば、実家の父が亡くなった際、兄から相続財産として、現金をもらっていました。分割協議書のコピーもありました。」

  「父が贈与してくれた際の贈与税の申告書が出てきました!」

 と何人かの奥様は、保管されていた書類を見つけ出してくださり、相続財産に計上することをまぬがれることができたケースがあります。
 このように、捨てなかった書類が、将来御自分を助けてくれることがあります。特に相続税の世界では、法律の世界と異なり、名義の如何にかかわらず、実質の所有者に課税するという考え方です。
  相続税の申告書や、確定申告書はもちろんのこと、御自分の収入や財産に関する書類は、御自分を守る武器として、まさに、御自分が亡くなるその日まで、保管されることをお勧めします。

長男相続の悩み-遺産取得課税方式の行方-

 現在の相続税の課税方式は法定相続分課税方式であり、これは法定相続分どおり遺産分割したものと仮定して全体の相続税を算出して、それに対して相続財産をもらった割合で各人が相続税を負担する方法です。
 この方法には大きく分けて二つの問題がありました。一つは納税者側の問題であり、もう一つは課税当局側の問題でした。
 まず、納税者側の問題は、相続税の調査で隠していた財産が見つかった場合、財産を隠していない相続人にも追加の相続税負担がでてきてしまい、さらに加算税・延滞税も課税されます。そのときに財産を隠していない相続人から「自分は何も悪いことしていないのに、なぜ相続税が増えて、さらに加算税・延滞税も課税されるのかが納得いかない」との不満の声をいつも我々は聞いていました。
 課税側の問題は、小規模宅地の評価減の特例です。それは現行のやり方ですと、その特例の対象地を相続していない他の相続人の課税価格まで下がってしまって、本来の趣旨から離れてしまい好ましくない、との批判があったからです。

 そこで出てきたのが「遺産取得課税方式」で、財産をもらった分について一定の基礎控除後の財産に所得税と同じように累進税率をかけて各人ごとに相続税を算出します。この方法ですと、各人ごとに計算しますので、先にのべた納税者側の問題も課税当局の問題もクリアーできて目出度し目出度しということになるはずでした・・・・。

 ところが、この方式に異議を唱えたのが地方の農家の人達でした。地方はいまだに長男がほとんど全ての財産を相続する慣習となっており、長男が全ての財産をもらうとそこに超過累進の相続税がかかってきてしまいます。
その人達から「これはたまらん!ちょっと待った!時期尚早」という声があがり、今回平成21年度税制改正では見送りとなりました。
 
 地方の農家の人達に何らかの手当てする制度を作った上でないと、この遺産取得課税方式の導入は難しいかもしれません。
 そうなるとここ数年の間に変更することは事実上不可能ではないかと思われます。