<債務の肩代わりがあるときの税務>


昨年まで続いていた経済成長は、サブプライムローン問題や原油高騰により最近では影をひそめ、個人が経済成長を実感することは少ないように感じられます。このような状況の中で、親が子の債務を肩代わりすることがしばしばあるのではないかと思います。このように債務を他の人が肩代わりすると贈与税の課税が問題となります。なぜなら従前の債務者からすれば自分の借金を他の人が返済してくれたことにより経済的利益を受け、この経済的利益に対して贈与税が課税されるためです。
 では肩代わりの方法にはどのようなものがあるのでしょうか。大きく①代位弁済、②免責的債務引受け、③重畳的債務引受け、の3つがあります。これらを簡単に解説すると次のようになります。

①代位弁済→債務者以外の人が債権者に対し債務を弁済すること。これにより債権者の権利が弁済者に移転します。
②免責的債務引受け→当初の債務者の債務弁済が不要になり、新たな債務者が債務関係を承継すること。
③重畳的債務引受け→従前の債務者と債権者との関係は維持し、新たな債務者が加入すること。

 これらの方法により債務を肩代わりすると、弁済者は債務者に対して求償権を有することとなります。その後、弁済者や引受者により、従前の債務者が求償権の放棄を受けた場合には、求償権相当額の経済的利益の贈与があったものとして債務者に対して贈与税が課税されます。
 ただし、債務者が資力を喪失して債務の弁済が困難なときに、債務者の扶養義務者が債務の弁済や引受けをしたときは、弁済が困難な金額については贈与税が発生しません(相法8条)。ただし、扶養義務者以外の方が弁済や引受けをしたときはこの規定の適用はありませんので注意が必要です。
 では、債務者が資力を喪失しているとはどのような状態をいうのでしょうか。相基通7-4によると、債務超過の状態のように社会通念上債務の支払不能の状態(破産原因となる程度に至らないものを含む)をいいます。財産状態や支払能力については固定資産税の課税明細や金融機関の残高証明書、金銭消費貸借契約書、源泉徴収票等により現状を把握し、検討することとなります。
 債務の肩代わりに関する税務、税金がかからないケースをご紹介しましたが、いずれにしても某消費者金融のCMではありませんが、借り過ぎには注意したいですね。

相続により取得した上場株式を売却するときの注意点

 相続により取得した財産のうちに上場株式がある場合には、そのまま継続して所有し続ける方も、株価の変動をにらみつつ適当な時期に売却して換金する方もあるでしょう。現在売却を検討している方、また、しばらく売る気はないが将来的には売却する可能性がある方は、売却時期により譲渡所得税が異なることとなりますので、次の「3つの期限」について留意してください。
1.相続税を経費にする~相続開始日から3年10ヶ月以内
 相続により取得した財産について相続税が課税された方については、相続開始日から3年10ヶ月以内にその財産を売却したときは、譲渡所得税の計算上相続税を経費にすることができます。
(例) その上場株式を売却したときの売却価格 1,000
    被相続人がその上場株式を購入したときの価額 100
    課税された相続税のうち売却した上場株式に対応する部分 200

→ 3年10ヶ月以内に売却した場合の譲渡所得税
   (売却価格1,000-取得費100-相続税200)×20%=140
  3年10ヶ月を越えて売却した場合の譲渡所得税
   (売却価格1,000-取得費100)×20%=180

2.みなし取得費を使う~平成22年12月31日まで
 平成13年9月30日以前から所有していた上場株式を、平成22年12月31日までに売却(特定口座での売却を除く)した場合には、実際の取得費に代えて「みなし取得費」を使うことができます。
 「みなし取得費」とは、平成13年10月1日におけるその上場株式の終値の80%相当額をいい、実際にその上場株式を購入した価額(実際の取得費)よりもこの「みなし取得費」の方が高い場合には、「みなし取得費」を使ったほうが、譲渡所得税が有利になるといえます。
 なお、相続開始日が平成13年10月1日以後であっても、相続人は被相続人の取得日を引き継ぎますので、被相続人がその株式を購入した日が平成13年9月30日以前であれば、相続人が「みなし取得費」を選択することが可能です。

3.優遇税率10%の適用を受ける~平成20年12月31日まで
 平成20年12月31日までに証券取引所を通じて上場株式を売却した場合には、譲渡所得税の税率が10%に優遇されていますが、この期限を過ぎると20%の原則税率が適用されますので注意が必要です。ただし、平成21年1月1日~平成22年12月31日までの2年間については経過措置が設けられており、1年あたりの譲渡益が500万円までであれば優遇税率10%が適用されますが、それを超える譲渡益については20%の原則税率が適用されることとなります。つまり、譲渡益について制限なしで10%の優遇税率が適用されるのは、今年いっぱいということになります。

 以上のとおり、相続により取得した財産が現金以外のもの、つまり、不動産や上場株式等の場合には、相続税だけではなくその財産を売却したときには譲渡所得税が課税される可能性があります。したがって、税負担を抑えたい場合には売却時期についてもしっかりと検討する必要があります。

国際相続の行方

 アメリカでは、大統領選挙が終盤を迎えています。共和党のマケイン候補と民主党のオバマ候補との最終決着を11月に控えているところですが、現ブッシュ大統領の減税によって大きな変化を迎えようとしているアメリカの相続税の行方を簡単に触れておこうと思います。
 まず、2010年にアメリカの相続税は廃止されます。これは、2001年から始まったサンセット法(日本の租税特別措置法のような一定期間の暫定的な法律です。)に基づき、相続税の税率が段階的に下げられ、2010年の1年間だけ、相続税が廃止されるということになります。また、2009年までの制度では、相続時の時価を譲渡所得の計算に用いる取得価額に置き換えます。しかし、相続税が廃止される2010年の相続については、譲渡所得の計算に用いられる取得価額が日本の制度と同じように引き継がれることになり、相続時の時価で置き換えられるということにはなりません。しかし、何の手当てもなされないと、2011年においては、また相続税が再び復活し、2001年当時の税制に急変するというシナリオになります。
 そもそもアメリカの相続税では、遺産を取得した人に課税がされるのではなく、遺産を残す被相続人に課税がされる遺産課税方式となっております。そのため、以前は、被相続人が日本に居住し、相続人がアメリカに居住していた場合には、日本とアメリカの両方において納税義務者とならないという事態がありました。しかし、日本の相続税では、平成12年に国籍基準が導入されております。具体的には非居住無制限納税義務者と言われ、相続又は遺贈により財産を取得した者が日本国籍を有する場合には、日本に居住していなくとも、被相続人と相続人のいずれもが5年超の期間日本から離れていない限り、全世界財産が課税の対象とされます。
 ところで、制限納税義務者の場合に課税の対象が国内に限られるので、有利と思うかもしれませんが、常にそうとも限りません。仮に日本に財産が100、その財産に係る負債が20あり、アメリカに財産が40、その財産に係る負債が60あったとします。その場合、
 1.無制限納税義務者の課税財産の合計は100+40-(20+60)=60
 2.制限納税義務者の課税財産の合計は100-20=80
となり、逆に制限納税義務者のほうが不利になることもあります。多国籍間の財産の所在についてバランスをとることが必要かと思われます。
 平成12年以前の事件ですが、海外に住居を移した長男への株の贈与の無申告について争いがある「武富士事件」については、1審で納税者勝訴、2審では国側勝訴となっていて上告審に注目が集まっております。アメリカ相続税の行方もそうですが、国際相続について様々な事案が増えていきそうです。

参考文献
 ・税研 139号 矢内一好「国際相続の税務」
 ・三木義一 前田謙二『よくわかる国際税務入門』(有斐閣)