事業承継税制と遡及適用

取引相場のない株式に係る納税猶予制度の創設が平成21年税制改正において予定されています。この納税猶予制度の適用開始は中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の施行日に遡って適用することとされています。そして、この経営の承継の円滑化に関する法律の施行は平成20年10月が予定されていますので、納税猶予制度も改正が行われると想定される平成21年3月から約6ヶ月も遡ってしまう計算になります。
租税法規の遡及適用については、法的安定性、予測可能性の観点から問題が生じますが、納税者へ著しい不利益を与えるものでなければ許されるものとされています。昭和51年3月31日の地方税法改正法の成立に伴って改正条例によりM県及びT市により賦課された昭和51年度分の個人住民税均等割については、賦課期日はその年度の1月1日ということで、租税法規を遡って適用しています。しかし、昭和55年9月16日の名古屋高裁の判決においては、「軽微な変更に止まり納税義務者に著しい不利益を与えないものと認められる」として許容しています。
また、記憶に新しいところですと、平成16年3月26日の租税特別措置法改正法の成立により、平成16年1月1日以後の土地建物の譲渡損失の損益通算が認められないことになりました。これについて平成20年1月の福岡地裁では、租税法規不遡及の原則に反しており、違憲であり、損益通算を認めるべきという判断を示しています。逆に、平成20年2月の東京地裁では、前年の税制大綱においても示されており納税者に周知徹底が図られており遡及適用に合理的な必要性があったとして損益通算を認めないという判断を示しています。このように判決は分かれており、それぞれ控訴審において係属されていますが、そもそも、「納税者の利益に変更する遡及立法は許される(金子宏『租税法〔第11版〕』弘文堂、2006年、118頁)」と考えられます。
自社株の納税猶予制度については、納税者の利益に変更するものであるため、許容されるものと考えられます。しかし、これと同時に遺産取得課税方式の導入などの相続税の抜本的見直しがされた場合には必ずしも納税者の利益にはならないのではないかとも考えられます。納税猶予制度を採用した場合にのみ遺産取得課税方式で計算をするなどの経過措置が設けられるのでしょうか、また、早い段階でさらなる制度の周知徹底がなされて納税者の不利益を事前に消滅させていくのでしょうか。租税法規の遡及適用について、控訴審の行方も含めて注目していきたいところです。


参考文献
 ・宮崎良夫「遡及立法」水野忠恒ほか『租税判例百選〔第4版〕』有斐閣、2005年、8頁
 ・金子宏『租税法〔第11版〕』弘文堂、2006年、118頁