事業承継に際してのスタートライン

前2回のコラムでもご紹介したように、事業承継についての問題がクローズアップされています。国による支援も民法特例の創設・税制改正で順次なされてゆく予定となっています。
「新しい事業承継税制も出来るからもう大丈夫だ。何もしなくていいな。」
本当にそうなのでしょうか。現状では民法の特例法の法案が出されていますが、内容は遺留分の問題解決と融資制度に関するものですし、税制については平成21年度の税制改正待ちの状況です。また、自民党の税制改正大綱や財務省の税制改正の要綱から読み取れることは、減税されるわけではなく、あくまで相続人が亡くなるまで納税猶予する、つまり一定条件を満たせば相続人が亡くなった際に相続税の免除が受けられるというものです。この税制で事業承継が出来ると考えている後継者の方が、最終的にこの要件を満たさず相続人である後継者の方にあとで納税が発生し、後継者の方がご苦労されるケースも出てくる可能性があります。

ですが、この税制の検討の前に下記の項目を一つ一つ考えていただき、どのような方向が自社の事業承継に最も適しているのか、明確にしておくべきでしょう。

①「いつ」事業承継するか
現・代表者の方にとって、いつ事業承継するべきかを決定することが、一番に重要な項目です。いずれ、身体的・能力的・社会的・経営感覚的な限界はやってきます。また、それがやってきたとしてもすぐに後継者へ会社を引き渡せるわけではありません。事業承継をソフトランディングさせるため、補助してゆく期間も必要かと思います。その時間の制約を先に把握しておくことが重要ですし、ゴールの時期を明確にすることで、対策の方法も変わってきます。

②「だれに」事業承継するか
ここが最も悩ましいところかと思われます。すべての企業に望ましい後継者が必ずいるわけではありませんし、後継者が決定しているわけでもないかと思われます。ご意志として親族内に承継して行きたいとお考えの場合もありますし、そのご意志はない、もしくは親族内承継が無理という場合もあります。親族内承継が無理なのであれば、古くからその会社を一緒に経営してきた役員の中に引き継ぎたい方がいらっしゃるかもしれません。それもいないようであれば外部から後継者を募る、もしくは会社ごと売却するなども考慮すべきでしょう。

③「何を」承継するか
会社経営においては承継する資産には「自社株」とその会社の事業に使用していた「不動産等」が重要な承継資産となります。「自社株」は後継者の方の経営権を確保するために重要な資産ですが、順調な経営を続けている場合評価額が高くなっていて、相続により取得する際に納税資金不足に悩むケースが発生する可能性があります。また「不動産等」も経営に必要な場合が多々ありますので、相続に際してその不動産等を売却しなければ納税資金が確保できないとなれば、以後の会社経営に多大な影響が発生してしまいます。

④「どのように」事業承継するか
①~③の段階を経て具体的な方法の選択を行う方向性が見えてきたかと思います。これに基づき、どのような事業承継方法が経営上、組織上、税制上、スムーズであるか検討する必要があります。

⑤「①~③が未確定」
後継者等が決まっていない場合でも承継しやすい形に変えておく必要はあるかと思います。具体的には、複雑になっている会社組織形態を再編する、少数株主の持株を金庫株で買取をし経営の安定化を図っておく、現・代表者と会社との金銭貸借を解消して流動性を持たせておく、などが挙げられます。

事業承継については会社ごとに望ましい形があるはずです。そこを念頭に置かず、何とかなるだろうと思っているだけでは、後継者に問題を残しているだけです。また、大きな会社ともなれば後継者の方の問題だけでなく、従業員及びその家族の方の人生にも関係してくる問題です。尚のこと経営者として先んじて考えておかなければならないことです。

今後、このコラムでも事業承継に関して情報をご提供して行きたいと思いますので、相続対策の一環として、ご参考にしていただければと思います。

事業承継税制の対象となる会社

平成21年度税制改正において事業承継税制の施行が予定されています。
事業承継税制とは、後継者が相続又は遺贈により取得した自社株式の80%に対応する相続税の納税を猶予するというものです。

この適用を受けるためには、
① 被相続人要件
② 相続人要件
③ 適用会社要件
④ 事業継続要件
と、様々な要件を満たさなければなりませんが、ここでは③の適用会社用件についてご説明致します。

対象会社は、中小企業基本法の中小企業であることとされています。
業種に応じて、以下のような資本金又は従業員数の制限があります。

・製造業その他 →資本金3億円以下  又は 従業員数300人以下
・卸売業    →資本金1億円以下  又は 従業員数100人以下
・小売業    →資本金5千万円以下 又は 従業員数50人以下
・サービス業  →資本金5千万円以下 又は 従業員数100人以下

なお、現行の自社株式に係る10%の減額措置についての発行済み株式総額20億円未満という要件は撤廃されています。

事業承継税制と遡及適用

取引相場のない株式に係る納税猶予制度の創設が平成21年税制改正において予定されています。この納税猶予制度の適用開始は中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の施行日に遡って適用することとされています。そして、この経営の承継の円滑化に関する法律の施行は平成20年10月が予定されていますので、納税猶予制度も改正が行われると想定される平成21年3月から約6ヶ月も遡ってしまう計算になります。
租税法規の遡及適用については、法的安定性、予測可能性の観点から問題が生じますが、納税者へ著しい不利益を与えるものでなければ許されるものとされています。昭和51年3月31日の地方税法改正法の成立に伴って改正条例によりM県及びT市により賦課された昭和51年度分の個人住民税均等割については、賦課期日はその年度の1月1日ということで、租税法規を遡って適用しています。しかし、昭和55年9月16日の名古屋高裁の判決においては、「軽微な変更に止まり納税義務者に著しい不利益を与えないものと認められる」として許容しています。
また、記憶に新しいところですと、平成16年3月26日の租税特別措置法改正法の成立により、平成16年1月1日以後の土地建物の譲渡損失の損益通算が認められないことになりました。これについて平成20年1月の福岡地裁では、租税法規不遡及の原則に反しており、違憲であり、損益通算を認めるべきという判断を示しています。逆に、平成20年2月の東京地裁では、前年の税制大綱においても示されており納税者に周知徹底が図られており遡及適用に合理的な必要性があったとして損益通算を認めないという判断を示しています。このように判決は分かれており、それぞれ控訴審において係属されていますが、そもそも、「納税者の利益に変更する遡及立法は許される(金子宏『租税法〔第11版〕』弘文堂、2006年、118頁)」と考えられます。
自社株の納税猶予制度については、納税者の利益に変更するものであるため、許容されるものと考えられます。しかし、これと同時に遺産取得課税方式の導入などの相続税の抜本的見直しがされた場合には必ずしも納税者の利益にはならないのではないかとも考えられます。納税猶予制度を採用した場合にのみ遺産取得課税方式で計算をするなどの経過措置が設けられるのでしょうか、また、早い段階でさらなる制度の周知徹底がなされて納税者の不利益を事前に消滅させていくのでしょうか。租税法規の遡及適用について、控訴審の行方も含めて注目していきたいところです。


参考文献
 ・宮崎良夫「遡及立法」水野忠恒ほか『租税判例百選〔第4版〕』有斐閣、2005年、8頁
 ・金子宏『租税法〔第11版〕』弘文堂、2006年、118頁

必ず相続できるとは限らない

推定相続人であるからといって、必ず相続権があると考えている方はいらっしゃいませんか?それは大きな間違いです。場合によっては相続権を失うこともあるのです。
その原因として、「相続欠格」と「相続廃除」という民法の規定があります。

・相続欠格
相続欠格とは家族の共同生活関係を破壊させるような違法や非行が推定相続人にあった場合に、その推定相続人から相続権を失わせる規定です。(民法891条)
具体的には以下の欠格原因に該当する人は何らの手続きを待たずに法律上当然として相続権を失ってしまいます。
①故意に被相続人や先順位・同順位の相続人を殺したり殺そうとしたりして刑に処せられた人
②被相続人が殺害されたことを知りながら、これを告発(又は告訴)しなかった人(一定の場合を除く)
③詐欺や脅迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、これを取り消し、又はこれを変更することを妨げた人
④詐欺や脅迫によって、被相続人が相続に関する遺言をさせ、これを取り消させ、又はこれを変更させた人
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、又は隠匿した人

・相続廃除
相続廃除とは遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待や重大な屈辱を加えたとき、又は推定相続人に著しい非行があったときに、被相続人がその推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することで推定相続人から相続権を失わせる規定です。(民法892条)
著しい非行の例として以下のようなものがあります。
 ・被相続人の財産を不当に処分した
 ・賭博を繰り返して多額の借金を作り、これを被相続人に支払わせた
 ・その他の事由
相続廃除については生前に家庭裁判所に請求する以外にも遺言によることもできます。

以上のような理由により推定相続人であっても相続権を失うこともあるのです。
 相続欠格又は相続廃除になった場合、その相続欠格者又は被廃除者に子供がいるときは、その子供は代襲相続人となることができます。子供が2人以上いる場合には基礎控除が増えてかえって相続税が有利になるという考え方もあるでしょう。しかし、そのような考え方はいけません。財産に惑わされず、家族仲良く生活していくのが一番だと思います。