年金二重課税訴訟の福岡高裁判決を受けて

年金受給権と同権利に基づく年金に対する所得税の課税が二重課税かどうかについて、福岡高裁は平成19年10月25日、二重課税には該当しないとの国側勝訴の逆転判決を下した。
原審では、相続税法における年金受給権は、各年金の現在価値に引き直したものにすぎず、実質的・経済的には同一の資産に対して課税するものであり、所得税法9条1項15号の非課税の趣旨により許されないとされていた。
しかし、福岡高裁では、年金受給権と各年金については民法上、別個のものであり、相続によって取得した年金受給権については非課税とされるものの、現実に支給される各年金は、支分権に基づいて発生するものであり、所得税法35条に規定する雑所得として課税されるとしている。
年金総額を一括して一時金として受けた場合には、所得税が課税されないのに、死亡後に支払われる年金について課税がされるのは理解し難い部分もあるかもしれない。しかし、相続により取得した土地についてまず、相続税が課税され、さらに、その土地を毎年処分したならば、その譲渡益に対しても年々所得税が課税されることを年金に置換してイメージするとぼんやりと理解できそうである。所得税法施行令183条では、その年に支払われる年金のうち、年金総額に対して掛金の占める割合部分を控除することを規定している。これは、譲渡所得の計算における取得費に近い概念であろう。
ところで、相続により取得した財産について相続税の納税資金を捻出するために売却したときに譲渡所得という所得税が課せられるという実務をやっていれば当然と思われていたことについて最近ふと考えさせられた。米国資産税では、STEP-UP IN BASISという制度により、相続により取得した財産については、相続時の価額に取得費が置き換わる。つまり、相続後に取得した財産を直ちに売却した場合には、ほとんど所得税が課税されないことになる。ちなみに、生前贈与で後世に移転する場合には、取得費は引き継がれる。日本の譲渡所得の計算においても、租税特別措置法39条により、相続開始後3年10ヶ月以内に譲渡した場合には、相続税額の一部分を取得費に加算して譲渡所得の負担を緩和する制度が設けられている。それでも、主に譲渡対価の5%とされてしまう取得費を相続により移転しても引き継ぐこととされているため、譲渡所得は大きい。
所得税法9条1項15号の立法の経緯をたどると、一時所得とされるもののうち相続により取得したものについて非課税とされていたという。年金二重課税訴訟は納税者が上告をしたため、最高裁で争われることになるが、どのような判断となるか非常に気になるところである。

参考文献
 ・「関連者間における所得移転と所得税の課税対象」酒井克彦『税務事例』39巻7・8号
 ・税務通信11/5号