みなし相続財産

 Aさんは、晩年において、痴呆状態にあり、誰かの介護がなくては生活できない状況にありました。Aさんの配偶者であるBさんは自宅にバリアフリーのための改修(平成19年度改正において一定の住宅バリアフリー改修については、所得税、固定資産税の一定の減額措置が設けられています)をした上で、熱心に介護を続けました。Aさんには二人の子供がいました。おにいちゃんのCさんは、ニートとして部屋にひきこもり、株の投資による収入でまったりと暮らしていました。いもうとのDさんは、対照的に家でも外でも活動的で、昼はオフィスで汗を流し、夜はBさんが行うAさんに対する介護を手伝っていました。CさんとDさんは仲がよくありませんでした。

 その後、Aさんはなくなり、後を追うようにしてBさんも亡くなりました。
 Bさんは自己を保険金契約者及び被保険者とし、死亡保険受取人をDさんとする養老保険を契約していました。保険金は1,000万円です。

 Bさんの死亡に伴う遺産分割において、この保険金について、民法903条に規定する特別受益に該当するかどうか問題となります。特別受益とは、被相続人から生前に贈与を受けていた場合のその贈与の価額です。被相続人が相続開始時点において有していた財産の価額にこれらの贈与の価額を加えたものを相続財産とみなして、持ち戻しをして、本来の相続分から、その贈与の価額部分を控除して、特別受益者の実際の相続分とします。

 おにいちゃんのCさんは、死亡保険金はDに対する特別受益であるとして主張します。しかし、平成16年10月29日最高裁判決(判時1884号、P40)では、保険金受取人が自らの固有の権利として保険金を受け取るものであり、保険契約者又は被保険者から承継するものではなく、相続財産に属するものではないものとしています。そして、著しい不公平が生じる場合を除き、原則として保険金は特別受益には該当しないと判示しております。なお、平成14年11月5日最高裁判決(判時1804号、P17)では、遺留分減殺の対象にならないことも明らかにしています。

 相続税でも相続や遺贈の概念は民法からの借用概念ではありますが、相続税法3条では、被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約の保険金を取得した場合においては、その保険金受取人について、その保険金のうち被相続人が負担した保険料の金額のその契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分を相続又は遺贈により取得したものとみなすと規定しています。つまり、民法上は相続財産ではありませんが、相続税法上では相続財産に含まれて課税されるのです。ただし、その保険金については、長期貯蓄の奨励と遺族の生活保障を目的とした非課税金額が相続税法15条2項に規定する法定相続人の数に500万円を乗じた部分まで認められています。すべての相続人が取得した保険金の合計額がこの非課税限度額以下である場合には、全額が非課税とされます。上手に活用したいものです。

<参考文献>
 渋谷雅弘「みなし相続財産―保険金」(金子宏ほか『ケースブック租税法(第二版)』P608~)
 中西正明「生命保険金請求権の相続性」(久倉忠彦ほか『家族法判例百選(第6版)』P130)

未成年者の孫養子に注意

 「孫養子」による効果は周知のことと思います(当コラムでも千村が書いています)。
 再度確認しますと、基礎控除の額の計算、生命保険金・死亡保険金の非課税限度額の計算と2割加算の制度に関係します。
 基礎控除の計算は「5千万円+1千万×相続人の数」で計算されます。しかし養子に関して税法上は相続人の数が民法と異なり、「相続税法上の相続人」の数は実子が1人いる場合には養子は1人まで、実子がいない場合には養子を2人まで算入することが出来ます。生命保険金・死亡保険金の非課税限度額の計算上の相続人の数も「相続税法上の相続人」の数となります。
 また2割加算の制度とは、相続により財産を取得した人が、一親等の血族および配偶者以外の人である場合、その人の相続税額は相続する財産に応じた相続税額にその2割を加算した額となるという制度です。この一親等の血族には、被相続人の直系卑属が被相続人の養子であった場合は含みません(代襲相続人除く)。
 つまり孫を1人だけ養子にした場合などは2割加算の適用を受けてしまうけれども、基礎控除額は1千万円増えるということになります。
 めでたし、めでたし。
 ・・・・ではありません。未成年者を養子とした場合には注意が必要です。
 たとえば相続人が、子が2人、そのいずれかの子の未成年者の子、つまり孫が養子となって1人、都合3人の相続人がいるような場合があったとします。
 税務上は上記の考え方で大丈夫です。
 しかし、遺産分割の際に問題が生じます。未成年者である孫の法律行為の代理人は通常親がなるのですが、上記のような状況ですと親(子の1人)と子(孫養子)が共に相続人であるため、利益相反関係が生じます。つまり通常法律行為を行っていた親が子に代わって遺産分割をすることが出来なくなります。その際には家庭裁判所に「特別代理人選任申立書」を提出し、利害関係のない者を候補者として立てて、特別代理人を選任してもらうこととなります。
ですが、この特別代理人の選任に関して、家庭裁判所は遺産分割の内容に踏み込んだ審判が下る可能性があるのです。具体的にいうと、申立人に遺産分割協議案を提出させ、その内容が未成年者に不利益な内容でない場合に、特別代理人に「別紙遺産分割協議案のとおり分割協議することについて」代理権を付与する場合があるのです。
 これは、未成年者の権利を保護するために行われるためであり、上記の例で言うと、法定相続分の3分の1は孫養子に分割するよう家庭裁判所より指示を受ける可能性があります。
 こうならないためには被相続人は孫養子にするのと同時に、孫養子に対する遺言を残し、どのような財産を孫養子に残す意思だったかを明らかにしておく必要があります。
 税金だけでなく、その後の分割を見据えた養子縁組を行いましょう。

ワンランク上の遺言書作り

 自分の相続が原因で、遺産を巡り親族間で争いを起こして欲しくないためにすでに遺言書を作成している方も少なくないと思います。

 遺言書の作成にあたっては、あとでトラブルにならないよう遺留分の問題や遺言書の有効性などに配慮して作成しなければなりませんが、この点(法律面)については比較的意識されて作成している方が多いようです。

 では、相続税(税金面)を意識して遺言書を作成されていますでしょうか?
 相続税は遺産分割の仕方によって特例の適用の有無が変わってくるため、納めるべき税金が大きく変わってくることがあります。したがって、法律面では一見有効な遺言書で遺留分も配慮した作りになっているのにもかかわらず、その通りに分割したら相続税法上の有利な特典を充分に生かしきれていないというケースがたまに見うけられます。

 相続税法上の有利な特典とは、主に「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地等の減額特例」などがあります。前者は配偶者が財産を取得した場合、一定割合までは非課税となる特例、後者は居住用や事業用の土地を取得した場合、通常の評価額から要件によっては80%または50%の金額が控除される特例です。特に後者は、取得者の要件により控除額がかわってくるので、慎重に対応するべきです。

 また、各人の納税の可否についても配慮して遺言書を作成するべきです。例えば配偶者には、今後の生活を考え自宅と現金を配分し、子どもにはそれ以外の土地だけを配分した遺言書を作成した場合、いざ相続が起きたとき子どもは相続税を即納することができません。したがって、あらかじめ相続税相当分の現金を子どもに配分しておくか、あるいは物納までを視野に入れて配分をする必要があるでしょう。
ということで、すでに遺言書を作成している方も、税金の面から改めて見直しされてみてはいかがでしょうか?

 遺言書には、遺言者の意思を尊重すべきなのは当然のことですが、それに加えて将来の相続税を意識して配分方法を決め、法律面と税金面の両者を充足してはじめてワンランク上の遺言書といえるでしょう。

申告しなければなりませんか?

 ある日、相続が起こりました。お葬式、四十九日…。慌しく過ぎていきましたが、一段落ついたところではたと気がつきました。「相続税の申告をしないといけないのだろうか?」
 目安として、次の計算をしてみてください。
プラスの財産(土地・建物・現預金など) - マイナスの財産(借入金・葬式費用など)=A
 Aの額が基礎控除額を超える場合には、相続税の申告をしなければならないと考えられます。では、基礎控除額とはいくらなのでしょうか?基礎控除額は、5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)で計算されます。例えば相続人が配偶者と子供2人だったときの基礎控除額は、
 5,000万円+(1,000万円×3人)=8,000万円
です。この場合、先程のAの額が8,000万円を超えるならば、申告が必要と考えられます。
 ひょっとしたら次のようなことをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。「そういえば配偶者には税額軽減の特例があるって聞いたことがある!基礎控除額は超えるけど、その特例を使えば税額はでないみたいだから、申告しなくていいのかな」ご注意ください。基礎控除額を超えている場合、配偶者の税額軽減・小規模宅地等の減額(生活の基盤となる土地に対する軽減です)・自社株の減額によって結果的に税額が0になるとしても、申告はしなければなりません。なぜかというと、これらの特例は申告をしなければ受けられないものだからです。
 さて、プラスの財産として、土地・建物・現預金・有価証券・生命保険金(非課税枠あり)などはすぐに思いつかれるものだと思います。忘れがちなのが「生命保険契約に関する権利」(以下「関する権利」とします)と呼ばれるものです。被相続人(亡くなった方)以外の方を生命保険の対象(被保険者)とする保険について、被相続人が保険料を支払っていた場合に、その負担分に応じる解約返戻金相当額がプラスの財産とされるのです。被相続人の死亡によって支払われる生命保険金は実際に保険金の入金があるためわかりやすいと思いますが、「関する権利」は被保険者が被相続人ではないため、相続が起こっても保険金の入金はありません。そのため見落としがちなのです。
 このように普通は財産だと思わないようなものでもプラスの財産として課税の対象になるものがあったり、逆に普通は差し引けると思わないようなものでもマイナスの財産として差し引けるかもしれませんので、ご心配であればまずは専門家にご相談されてみてはいかがでしょうか?

養子と遺言と相続税

次のような相談がありました。
財産が3億円あるAさんには、配偶者も子もなく、親も既に死亡しているためAさんが死亡したときの相続人は兄弟姉妹4人(B・C・D・E)です。そのうちの妹Bさんが同居をしてAさんの生活の世話をしているため、AさんはBさんに財産を全部相続させたいと考えています。この場合、考えられる方法は次の二つがあります。①BさんをAさんの養子にする。②Bさんに全財産を渡す旨の遺言を書く。それぞれの場合、相続税額はどうなるでしょうか。
①Bさんを養子にした場合
法定相続人はBさんのみになり、Aさんの相続に係る相続税額は約7,900万円になります。

法定相続人:1人   
基礎控除額:6,000万円
2割加算:適用なし
相続税総額:約7,900万円

②遺言を書いた場合
法定相続人はB・C・D・Eさんの4人です。親や子供以外の者が財産を取得することになるので相続税額が2割増になり、3,500万円×1.2=4,200万円になます。兄弟姉妹には遺留分がありませんので、Bさん1人が全財産を取得しても他の兄弟姉妹は何も文句が言えません。

法定相続人:4人
基礎控除額:9,000万円
2割加算:適用あり
相続税総額:約4,200万円

【結論】
①と②ではBさんが全財産を取得することにかわりはありませんが、相続税額は3,700万円もの違いがあります。これは法定相続人の数によって、相続税がかからない金額(基礎控除額:5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)が違ってくるためです。法定相続人の数が多いほど相続税額は少なくなりますので今回の場合、遺言を書いた方が相続税は少なくてすみ、敢えて養子縁組をする必要はありません。諸事情を考慮して総合的に判断した上で、最良の方法を検討してみてください。