相続と聞くと

 相続と聞くと、みなさんは何を連想されるでしょうか。遺産相続でもめる場面を連想される方もいらっしゃるでしょうし、多額の相続税を連想される方もいらっしゃるでしょう。
相続税が他の税金と比較して特殊だと言われるのはいろいろな理由があります。その中で最も代表的な意見は「思ってもみなかった/多額の相続税が/ある日突然に降りかかってきた!」というものではないでしょうか。相続という言葉からすぐに「相続税」という言葉を連想された方は、おそらくそのような事例をどこかで見聞きされたことがあるはずです。

 相続税はそういった評判に違わず特異なものです。所得税や法人税は、個人や法人の稼ぎ(=所得)を対象に、稼いだ個人や法人自身に税金が課されますが、相続税は被相続人の持っていた財産を対象に、その財産を受け継ぐ相続人に税金が課されます。前者は自己完結型ですが、後者はそうではないため、相続税を納める多くの方が「思ってもみなかった」という感想を持つことでしょう。
この点を課税する側から考えてみましょう。現代の相続は遺産相続です。つまり相続とは、被相続人の持っていた財産と債務を当然に引き継ぐことを指します。相続税はこの引継ぎの時点における「引継ぎ料」として課されるものです。被相続人が持っていた財産を引き継ぐということは、受け継ぐ相続人にとってはその財産は不労所得に該当するため、課税する側からすれば課税しやすいということになります。

 また、所得税や法人税は1年間又は1事業年度と期間を区切るものであるのに対し、相続税に期間を区切るという考え方はありません。いわば1人の人間の一生分の所得を一回で精算してしまうので、「多額の」という感想が出てくるわけです。
それでは相続税の前払いや後払いは可能でしょうか?残念ながら後払いには厳しく制限がかけられていますが、前払い=贈与税の制度はあります。
特に平成15年度の改正により導入された「相続時精算課税制度」は、財産を次世代に早期に移転することを目的として創設されました。(従来あった)非課税枠が1年間で110万円までの贈与税とは別のものであり、非課税枠が期間を区切らずに2,500万円までという贈与税です。この2つの贈与税はいろいろな点で異なりますが、「相続時精算課税制度」は非課税の期間を区切らない点や、相続開始の際には確実に相続財産に持ち戻されることからより強く相続税の前払いという性格を帯びています。

 「ある日突然に」というのは、相続税の納税義務が被相続人の死亡によって発生するためです。
現代の相続は家督相続ではありませんし、医療も相当に発達しているため、被相続人となる方自身が自らの相続を考えるという意識が昔と比較して薄いことは否めません。しかし、財産を受け継ぐ側からすれば、受け継ぐ財産の範囲を明確に予告されるだけでも、「ある日突然に」ということはなくなるのではないでしょうか。財産(特に親の財産)は、受け継ぐ側からはある程度推測出来ても、実際に相続が開始されると「さっぱり分からない」という声をよく聞きます。できれば財産を受け継ぐ方と生前から話し合いをされることをお勧めします。その中で「多額の」相続税を圧縮する対策や、分割に伴う争いの回避等の対策を行うことができるのです。

居住用財産の3千万円控除を意識した配偶者贈与

1.贈与税の配偶者控除
 結婚期間が20年以上の夫婦間でのマイホーム、またはその購入資金の贈与には、1回に限り最高2,000万円までの控除を受けることができます。この特例は、贈与税の基礎控除と合わせて受けられるので、最高で2,110万円のマイホーム、またはマイホーム購入資金を贈られたとしても、課税されない計算となります。 ただし、無税でも申告は必要です。
また、この配偶者控除での贈与は相続税の3年内加算の対象にもなりませんので、有効な相続対策といえます。

2.居住用財産の3千万円控除
 マイホームを売却して譲渡益が出た場合には、3千万円の控除を受けることができます。共有で所有しているマイホームの場合には、共有者が各々3千万円を控除することができます。
ただし、下記の要件をクリアした場合に限ります。
①居住用家屋又はその家屋と敷地の譲渡であること
②住まなくなってから3年目の年末までに売却すること
③売却する相手は配偶者や特定の親族でないこと
④その年の前年、前々年にこの特例を受けていないこと
⑤税額がゼロでも必ず申告をすること

3.居住用財産の3千万円控除と配偶者贈与
 配偶者控除を適用してマイホームの一部(共有持分)を贈与し、その後マイホームを売却する可能性がある場合には、土地の持分だけではなく、家屋の持分も併せて贈与しておきましょう。そうすることで、夫婦で各々3千万円控除を適用することができます。
 その理由は、3千万円控除は本来家屋のみに適用できる制度で、土地はあくまで家屋とセットで売却した場合にのみ、おまけで適用していいよという位置づけだからです。
 したがって、3千万円控除を適用するための基本要件として、土地だけでなく、一部でも家屋の共有持分を所有していることがポイントになります。

一時金でもらえば非課税で年金でもらえば課税?

ここで一つクイズです。甲さん乙さんの条件は同じと考えてください。
甲さんは、相続がおきて生命保険金を一時金でもらいました。乙さんは相続がおきて生命保険金を年金方式(受取額は確定)でもらいました。この場合の甲さん乙さんの所得税は課税か非課税か?
(四択)
①甲さん乙さんとも課税        ②甲さん乙さんとも非課税
③甲さんは課税・乙さんは非課税   ④甲さんは非課税・乙さんは課税

(答え)
実は、答えは二つあります。
(税務署的な答え)④と(裁判所的な答え)②
 
(解説)
(税務署的な答え)④
 生命保険金を一時金で受取って相続税の申告をした場合、相続税が課税されている一時金には所得税は課税しないということになっており非課税です。その趣旨は、一時金に相続税と所得税の一物ニ課税を排除することにあります。
生命保険金を一時金ではなく年金方式で受け取る場合には、相続税では年金受給権で評価されて相続税の課税対象になり、その後、実際に毎年年金をもらった場合には年金の支払原資との差額が雑所得ということで所得税が課税されます。

(裁判所的な答え)②
でも、裁判所は上記の考え方に対して以下のように考えました。
「生命保険金であろうが年金受給権であろうが、その経済実体は何ら変わるものではない。したがって、年金形式で受け取った場合であっても非課税と解釈すべきである。」
 
長崎地裁平成18年11月7日判決は以上のような考え方により納税者が勝訴しました。(課税当局は控訴)

皆様はどう考えますか?

 (参考文献:三木 義一稿「年金受給権と年金の課税関係~長崎地裁平成18年11月7日判決の意義」月刊税理2007年2月号 117頁以下)